2017年9月にGoAngelを活用して2000万円の資金と55人の株主を獲得したマルチブックは、日本の大企業の海外子会社を対象に、会計・ERPシステム導入のコンサルティング事業で成長してきた会社だ。優秀なエンジニアやコンサルタントを抱え、3年前に多言語対応クラウド型会計・ERPソフト「multibook(マルチブック)」の自社開発に成功。世界に向け事業拡大を図っている。マルチブックが何をきっかけに現在の事業を始め、これから何を手掛けていくのか、村山忠昭・代表取締役CEOに話を聞いた。
月々3万円で使えるクラウド型会計・ERPソフトを自社開発
マルチブックの社員数は53人(2018年11月現在)。その3分の1が外国籍の人材だ。この規模の会社としては珍しく、海外7か所に拠点を置いているという。
同社が3年前に自社開発したという多言語対応のクラウド型会計・ERPソフト「multibook」とは、いわゆるERP(Enterprise Resource Planning)ソフトと呼ばれるもの。会計システムを中心とする企業の基幹業務システムを軸に、在庫管理や受発注管理、請求書作成等の機能を盛り込んだ総合型業務ソフトである。導入後すぐに利用でき、なんと月々3万円という低価格で利用できるという。
多機能で多言語対応、そして安価で利用できるシステムを開発した理由を、村山忠昭・代表取締役CEOはこう語る。
「企業が自社独自のシステムを導入するにはコストも高く、時間もかかります。中小企業のお客様にとってはなかなか手が出せませんし、大手企業でも海外拠点が小規模な場合、コストに見合わないことも多々あります。かといって現地の会計ソフトは現地の言語で作られているので使いづらいわけです」
「そこで両者を補完する会計ソフトがあれば、大企業だけでなく中小企業が海外に進出する際にも助かるはずだと考えて、自社で開発することにしました」
プロダクトの開発はフィリピンにある同社の拠点で行われ、運営もそこで行っているという。企業の海外進出で最もコストと労力のかかる会計システム導入が低コストでできるため、導入企業も増加中だ。特に、タイやミャンマー等、アジア圏での導入が増えており、現在は世界で60社が利用している。
「実際のところ、月々3万円ではユーザー数が300~500社に増えないと、採算に乗ってきません」
今後マルチブックでは営業活動に力を入れ、日系企業だけで1000社のユーザー獲得を目指すという。
日本企業のグローバル進出を会計・ERPソフトで支援
マルチブックの設立は2000年。開業当初は、日本に進出する外資系企業を対象にドイツの業務用ソフトSAPを導入するコンサルティング業務を手がけていたという。
しかし村山さんはITエンジニアだったわけではない。もとは外資系企業の経理マンだ。それが入社間もなく、その会社に日本で初めてSAPが導入された。経理担当者として、SAPをマスターする仕事が課せられたのだった。
一通りSAPを使いこなせるようになった後、村山さんはフィリップモリス・ジャパン、日本 IBMと外資系企業への転職を重ねる。そのIBMでは、それまでのSAPの知識と経験が買われ、技術者として採用された。それ以後、外資系企業が日本に進出する際の技術的なサポート業務に従事することになる。
IBMでSAP導入の実績を積んだ後に独立。事業発足当初は日本に進出する外資系企業のためのシステム導入コンサルをしていたという。
「日本の銀行とのインターフェースを開発したり、日本独自の手形を管理するシステムを盛り込む、といった作業をしていました」
創業5年目の時、インバウンドからアウトバウンドへのサービスに大転換する。
「主要顧客である日系の自動車会社が本格的に基幹システムを海外展開する方針を打ち出し、そのサポートを依頼されたのがきっかけでした」
日系自動車会社の海外進出に伴ってマルチブックはシンガポール、タイ、オランダ、ドイツ、アメリカ、ベルギーなどに進出していった。
だが先ほども伝えた通り、大企業とはいえ、海外拠点における事業はさほど大きなものではない。にもかかわらず自社独自のシステムを導入するには億単位のコストがかかる。そのうえ運用までに長い期間を要する。そのことに村山さん自身も忸怩たる思いを抱えていたという。
「もっと低コストで簡単に素早く使える会計・ERPソフトがあれば、企業側にも経費負担が少なくすむし、中小企業が進出する際にも使えるはず」と考えて自社開発に踏み切ったのが、多言語対応のクラウド型会計・ERPソフト「multibook」だった。
課題は信用力の向上
「multibook」を開発するために同社では億単位の資金を投入してきたという。
「ERP導入コンサルで得た利益をすべてこちらに投入してきました。当初は機能を絞り込んだ簡易なソフトにするはずでしたが、開発を始めると欲が出てくるもので、結果的にかなり使えるソフトができました」と村山さんは苦笑いする。
業種や品目によって大きく手法が異なる工場の生産管理は省いたものの、オフィスで必要とされる業務については一通りの機能を備え、なおかつ英語、ドイツ語、フランス語、タイ語、ベトナム語など10か国の言語や通貨に対応するソフトに仕上がった。だが、ソフトの機能は向上したものの新たな問題が浮上する。企業としての信用力である。
顧客企業にとって重要な経理情報ほか機密情報を無名の中小企業に預けて大丈夫なのかと懸念する声が顧客側から聞こえてきたのだ。
「通常なら新規株式上場(IPO)をして社会からの信用を得たいところですが、当社がそこに至るにはまだ準備に時間がかかります。その前段階で世間の信用力をあげるために、DANベンチャーキャピタルが運営する株式投資型クラウドファンディング GoAngelを活用することに決めました」
DANベンチャーキャピタルを通じて同社の業績がレビューされ、公に情報開示することで信用力を上げることが目的だったという。GoAngelを活用するに至った経緯は、「企業事例」を参照していただきたい。
multibookを世界標準のソフトにする!
マルチブックの当面の目標は、日系企業1000社にmultibookを導入すること。いずれは1万社まで拡大する可能性を見ているという。だが夢はそれだけにとどまらない。今後は新興国から先進国に進出する企業のサポートも視野に入れていくという。
「これまでは日本企業→海外という『1:n』のビジネスでしたが、海外企業が海外に進出する際のサポートできれば『m:n』のビジネスになります。こうなると10~20万社のユーザー獲得も夢ではなくなります」
マルチブックの成長に期待して、有名外資系コンサルティングファームで海外勤務経験を持つ優秀な人材が、続々と集まっているところだ。
「私たちはmultibookをグローバル標準ソフトにすることを目指しています。そしてあらゆる国の企業のグローバル進出を支え、世界経済の発展に寄与したいと考えています」
(取材・構成:ライター・大島七々三)