銀座で会員制の「銀座鮨 醇」を経営する悟中株式会社は2017年12月、株式投資型クラウドファンディングGoAngelを活用して株主を募集。代表取締役の廣瀬真由加さんは、そこで得た資金をもとに浦和に第2号店をオープンするなど、着実に事業を拡大している。
金融機関に相手にされずクラウドファンディングに注目
銀座八丁目の飲食ビルにある熟成鮨専門店の「銀座鮨 醇」。この店を運営する悟中株式会社は、GoAngelを活用することで、1600万円の資金調達を果たした。
「銀座鮨 醇」は会員制の店で、店頭に看板はなく、指紋認証の端末が設置されただけの扉があるだけ。その扉の奥に、高級感漂う和の空間が広がっていることを知るのは、この店の会員のみだ。
この店がGoAngelを活用した背景には、創業期の飲食店が共通して抱える課題があった。
「さまざまな業種の中でも飲食店は金融機関からの借り入れが難しい業種です。特に実績のない創業期ですと金融機関はまったく相手にしてくれません。そこで、はやりのクラウドファンディングに注目したんです」
そう語るのは悟中株式会社・代表取締役の廣瀬真由加さん。ネットでクラウドファンディングを調べていくうちに、『kitchen starter(キッチンスターター)』『CAMPFIRE(キャンプファイヤー)』『FUNDINNO(ファンディーノ)』などクラウドファンディングのプラットフォームの名前を知ったという。そしてそれぞれ募集金額の上限や扱う業種に違いがあることもわかってきた。
「それでもこの時は『購入型』とか『株式投資型』といった分類も理解していませんでした。目標達成金額の大きいところを探しては問い合わせをしたところ、最も親身になってくれたのが、「キッチンスターター」代表の渡辺浩志さんでした」
当初は株主を増やすことに懸念があった
悟中の創業は2016年9月。翌年の年頭に銀座鮨醇を銀座八丁目の金春通りにプレオープンした。高級すし店が居並ぶ金春通りで新参者のすし屋がいきなり繁盛するはずもない。
売上が伸びず、しかも並行して行なっていた熟成鮨の開発にも費用がかかった。
さらに採用したすし職人が定着せず、採用のための費用もどんどん出て行く。事業を継続していくにはまとまった資金が必要だった。
その話を聞いた「キッチンスターター」の渡辺代表から紹介されたのが、GoAngelを運営するDANベンチャーキャピタルの代表取締役・公認会計士、出縄良人氏だ。
廣瀬さんは出縄氏から拡大縁故募集について説明され、それが株式投資型のクラウドファンディングGoAngelだと知る。
「当初、株主を増やすことは第三者の株主比率が高くなり、今後の経営に支障をきたすのではないかという懸念もありましたが、出縄先生のお話をうかがって、そういうことではないということがわかりました。それと同時に、拡大縁故募集は会員制のお店には合っていると感じました。そこでGoAngelで資金調達をすることに決めました」
廣瀬さんが希望していたのは3000万円。だがGoAngelでは一人の株主から受ける投資は50万円が上限だ。なおかつ不成立の場合、1円も受け取れない。「0か100」のルールと知って、廣瀬さんは目標金額を見直すことにした。
「株主一人の投資枠が上限50万円では3000万円を集めるのに最低60人のご協力が必要です。頑張ればなんとかなるとも思いましたが、結局1600万円に決めました」
目標未達成の場合、0円になるというのは相当のプレッシャーだったという。かといって口数を増やすために、お客様の奥様や家族にお願いするようなこともしたくなかった。
「銀座は楽しく遊んでいただく場所。そこまでしてもらうとお客様のお店に対するイメージも重くなってしまう」と、廣瀬さんは無闇に広げることを避けたという。
需要調査のメールにお客様から意外な反応
GoAngelを活用するにあたって、必要な経費もあったという。
「会社概要書等の作成と株価算定を会計事務所に依頼して約50万円、PR用の動画の制作に50万円、合計で100万円あまりの経費がかかりました。これらの経費は達成後にお支払いするお約束で始めました」
着々と準備を進めながら、不安も抱えていたと言う。
「一番の心配は、お客様に嫌がられるのではないか、ということでした。お客様にお店の仲間になってもらうのが目的ですが、そのためにお客さんが減ってしまうのではないかと不安になりましたね。需要調査のメールを一斉にお送りする時は、本当に緊張しました」
しかしメールに返ってきた反応は意外なものだったという。
「『すごいね』とか『さすがだね』といった暖かい声をかけてもらえたんです。私がどれほど真剣にこのお店を経営しているか、熱意が伝わったようです。その時に私の選択は間違っていなかったと確信しました」
株主募集は2017年11月27日から12月20日までの24日間で行われた。一人の投資金額は25万円と50万円の2種類で行った。
年末の多忙な時期と重なり、最後の一人からの申し込みが入ったのは締切当日の23時15分。
「締切間近になっても目標額が達成できなかったので焦りましたが、クリアできてほっとしました」
GoAngelを通じて高まった信用
廣瀬さんはGoAngelを利用して、資金だけでなく、ほかにも多くのものを得たという。
「うちのお客様は一部上場企業の部長や役員クラスが多く、経営者の方も少なくありません。みなさんビジネス界で活躍されている方々ですから、私たちが上場企業に近い形で経営情報を開示し、事業の目的や計画を明らかにしたことによって、信用を深めていただけたように感じます」
GoAngelが重視するディスクロージャーによって、会社としての真剣さや熱意をお客さんに伝えられたという。さらにお店のことを知ってもらう機会にもなった。
「GoAngelを活用したことで、お客様も増えました。宣伝効果が期待できるのもクラウドファンディングの特長ですね」
今回の募集によって悟中では54人の株主を新たに獲得したという。経営者の中には、株主を増やすことをリスクと考える人が多いが、廣瀬さんの捉え方は正反対だ。
「お客様が私たちの仲間に加わってくれたような感じです。実際にあれからお客様からアイデアをいただくことも増えました。お客様方から応援してくださる気持ちが伝わってきて、とても心強いです」
株式投資型クラウドファンディングは中小企業の有力な資金調達の手段
廣瀬さんはその後、GoAngelで調達した資金をもとに銀座に続く2号店を埼玉県浦和にオープンするなど、経営規模を拡大している。業績が上向くまで配当を出すのが難しいため、現在、株主には特典として2万円の食事コースを1万円で提供しているという。
GoAngelを活用してみて、廣瀬さんは募集期間を選ぶことが大切だと感じたという。
「私たちが募集したのは忘年会シーズン真っ只中。お客様と連絡を取るのも難しい時期で苦戦しました。そう思うと3月、4月は人事異動の時期だったり、6月は決算発表だったりと企業活動には季節性があります。時期によって株主が募集しやすい時期としづらい時期があるように思いますので、業種業界別の季節指数のようなものを算出していただけると嬉しいですね」
要望としては一人当たりの投資上限の拡大と「0か100」のルールの見直しを挙げる。
「お客様の中には、50万円以上出資したいという方も少なくなかったので、70万、100万円と上限を拡大してもらえると、さらに大きな金額の調達がしやすくなると思います。また目標に足らなくてもその分の出資を認めてもらえるといいですね」
最後にGoAngelを体験した感想を聞いてみた。
「特に金融機関から融資を受けづらいスタートアップ期の企業や、新規事業を始めたい会社にとって資金調達の有力な方法だと思います。今後、私の周囲の人たちにもお勧めしたいです」
(取材・構成:ライター・大島七々三)
銀座鮨 醇 Makuakeプロジェクト成功しました!
完全会員制の熟成鮨店「銀座鮨 醇」が、購入型クラウドファンディングMakuakeでプロジェクトを実施(2018/12/7〜12/27)し、募集に成功しました!
ついに登場!入り口は指紋認証。銀座8丁目の完全会員制の熟成鮨店で新規会員大募集!
https://www.makuake.com/project/ginza-jun/